東京手仕事について

江戸から連綿と続く伝統が息づきながら、常に「時代の感性」を取り入れ、豊かで刺激的な「トレンド」を世界に発信し続けるまち、東京。まさに東京は、「伝統と現代」が融合し、「文化の多様性」を育んで来たまちです。
東京の「伝統工芸品」は、その風土と歴史によって磨かれ、洗練され、庶民に愛され、時代を超えて受け継がれてきました。

2020年「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」の開催決定を契機として、東京の伝統工芸品に対する関心が国内外で高まっています。私たちは、東京の有力な地場産業のーつである伝統工芸品産業の基盤を強化するためのプロジェクト「TOKYO Teshigoto」を始動いたしました。
これは、東京が誇る匠の繊細な手仕事の魅カを、国内はもとより世界に発信し、職人の手から手へと代々受け継がれてきた伝統の技を絶やすことなく、未来に引き継いでいく新しい取り組みです。

プロジェクトのーつは、伝統ある「匠の技」と、クリエイティブな「デザイナー等の感性」を組み合わせ、新たな伝統工芸品の商品開発を行うものです。もうーつは、東京都指定40品目の伝統工芸品の普及促進により、その素朴な味わい、親しみやすさ、そしてすぐれた機能性を広く周知していくものです。

プロジェクト「TOKYO Teshigoto」が、伝統工芸品に囲まれた潤いある豊かなライフスタイルを提案することにより、庶民の生活の中で生 まれた「粋」という美意識を多くの皆様に知っていただき、東京の伝統工芸品産業の新たな未来を切り開いていく礎となることを、心より願っております。
(公益財団法人東京都中小企業振興公社)


戦国の動乱が明け、天下泰平が訪れた江戸時代。徳川幕府が開かれた江戸は、多くの人々が集住する文化・経済の中心地として隆盛を誇りました。現代のように 職業が細分化されていなかった時代。江戸の人々は多くが「手に職」を持つ職人であり、専門分野別に同業の職人が集められ、大工町、塗師町、鍛冶町などの職人町が作られていました。2世紀余にわたり、続いた太平。社会の安定と商業の発達で生まれたゆとりを背景に、江戸っ子たちは娯楽を楽しみます。歌舞伎や浮 世絵を鑑賞し、日用品にも庶民の生活から生まれた美意識である「粋」や「いなせ」を求めるようになりました。自分の仕事に自信と誇りを持った職人たちは互いに腕を競い合い、江戸指物や江戸漆器、銀器など数々の手工芸品を作り上げていったのです。独自の町人文化を背景に、求められるモノを形にした職人たち。時を超えて今もなお愛される、匠の技と心意気。それは、まさにこの時代に花開きました。

江戸の町人文化から花開いた職人技


存亡の危機を乗り越えて

やがて時は明治、そして昭和へ。明治維新によって近代化へと舵を切った日本は、戦後の高度経済成長を経て急速な発展を成し遂げます。しかしそれは同時に、多くのモノが生まれてはたちまち消費される、大量生産時代の幕開けでもありました。手間と心を尽くした手仕事よりも、求められるのは便利さや効率。長きにわたり人間が手がけてきた仕事は機械化の波に押され、職人の数は減少の一途をたどります。時代のうねりの中で存亡の危機に晒された職人文化。しかし、陽の目を見ない時も、伝統工芸の担い手としての誇りと江戸っ子ならではの反骨心を胸に、職人たちはその技と意匠を絶やすことなく、確実に次の世代へと受け継いでいったのです。


江戸時代から4世紀以上を経た今。コンテンツ産業やファッション、食や伝統工芸品をはじめとする日本の文化が「クールジャパン」として世界から注目を集めています。2020年「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」開催を追い風に、国内外で価値が見直される江戸の「粋」を広く、力強く発信すること。そのために誕生したプロジェク トが「TOKYO Teshigoto」です。進取の精神に富んだ江戸っ子が、絶えず技術の革新に挑むことで磨かれてきた伝統工芸品は、伝統と現代が融合する都市・東京を体現する存在です。「TOKYO Teshigoto」は「喜ばれるモノを作リたい」という思いを胸に、一つーつ素材を吟味し、経験に裏打ちされた繊細な手仕事から作られる逸品の数々を、国内外に広く紹介していきます。初年度となる2015年に取り上げるのは、24人の職人による33商品。人々の暮らしを潤し、心をゆたかにする「東京の伝統工芸品」の新たなステージにご期待ください。

江戸が誇る手仕事を、いま世界へ


伝統工芸品産業の、新たな未来へ

手を尽くす。手を砕く。
手塩にかける。
古来より伝わる幾多の慣用句が示すように
私たち人間は、
いつの時代もその手に心を込め、
魂を注ぎ、絶えず新たなモノを生み出してきました。
モノづくりの歴史。それはすなわち、人類が創造の
可能性に挑み続けた
歩みそのものなのかもしれません。

その歴史の1ページに
名を刻んできた伝統工芸品産業が、
いま新たなステージに進もうとしています。
職人たちの手から手へ、そして、心から心へ。
時を超えて守り、受け継がれてきた
東京のモノづくりを、世界のすみずみにまで広げていく。
やがて歴史を紡いだ先で
振り返った時に見える轍そのものが「伝統」になる。

その轍を作る誇り高き担い手が一人でもいる限り、
東京の粋は、進化を続けていきます。