- 印伝には、鹿皮をいぶして色付けする「燻技法」、一色ごとに型紙で色を重ねる「更紗技法」、漆で柄を付ける「漆付け技法」があります。<印伝の山本>では漆付け技法を中心にしたものづくりを行っており、艶っぽくぽってりと盛り上がった漆の強い質感が魅力です。
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山本裕輔(やまもと ゆうすけ)
1982年9月生まれ
「古くからの伝統技術を継承しながら、新しい印伝を生み出すべく日々努力しております。」(財)伝統的工芸品産業振興協会主催 第31回全国伝統的工芸品コンクール 入選「陽陰の桜」
以後、第33回・34回全国伝統的工芸品コンクールにおいても新作が入選。2015年
「合切袋」が日本が誇るべき優れた地方産品「Wonder500」に選定
2016年
「レクサスニュー匠プロジェクト」にて山梨県代表として参加
2017年
「平成29年度 全国伝統的工芸品公募展」にて「日本伝統工芸士会会長賞」受賞
日本で唯一、甲州印伝伝統工芸士(総合部門)の資格を保持。
伝統技術を継承し高品質な甲州印伝を製作する傍ら、時代に合った甲州印伝のあり方を探り、さまざまなコラボレーションや新規開発に挑戦。
甲州印伝のワークショップ、講演会なども積極的に行い、次世代に甲州印伝を伝承すべく日々製作に励んでいる。 -
山本法行(やまもと のりゆき)
1985年1月生まれ
「唯一無二の製品として、作品をより良く作ることを心がけております。」(財)伝統的工芸品産業振興協会主催 第32回・33回・34回全国伝統的工芸品コンクール 3年連続で入選。
その他、新商品等の開発・製作に取り組み、特注商品の製作等も手がける。メディア出演多数。
<URUSHINASHIKA>は、漆、鹿、山梨の三つのキーワードを組み合わせて名付けられた新ブランド
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<URUSHINASHIKA>は、甲州印伝の技法を守りながら、社会的課題の解決と伝統工芸の振興を結びつけ、新たな価値作りを目指したブランドです。
現在、ニホンジカによる害獣被害が増えています。被害対策として捕獲された鹿皮は、そのほとんどが廃棄処分されてしまっているのが現状です。
<URUSHINASHIKA>では、この山梨県産のニホンジカの革を印伝の素材として活用しています。さらに、今までよりも環境負荷が極めて少ない鞣し技術を採用して、一般的な鞣しでは得ることのできない真っ白な鹿革を作製することに取り組みました。
印伝(いんでん)とは、天然の鹿皮を鞣(なめ)して染色し、漆で模様をつけた革工芸品のこと。なかでも甲斐の武将、武田信玄は鹿革の丈夫さを気に入り、甲冑を入れるのに印伝の袋物(信玄袋)を愛用したと伝えられています。かつては各地で作られていた印伝でしたが、その製法が現在まで伝わっているのは「甲州印伝」だけ。今回は、伝統を守りながらも、新しい感覚を持った印伝の製作に意欲的に挑み続ける<印伝の山本>をご紹介いたします。
鹿革の工芸品は、千数百年前からこの国で愛されてきました。

現代では、鹿革は牛革にくらべるとなじみの薄い工芸品かもしれません。しかし、鹿皮を使った革工芸品には千数百年もの長い歴史があります。日本書紀にも「仁賢天皇6年(493年)に、高麗の革工によりもたらされた」と記されています。
当時は、鹿皮を紫草や茜の根の汁で染めた上に絵を描いたり、木版などを使って文様を印してから着彩したりしていました。当時から松ヤニなどを燻(ふす)べ、いぶした煙で着色する技法もあったようです。
平安時代の半ば(900年代)になると、その耐久性やしなやかさ、軽さなどから、鹿革を武人が甲胄等に使うようになりました。小桜、しょうぶ、菱など、文様の種類が増えたのもこの頃のことです。
戦国時代になると、革工は大いに栄え、「甲州印伝」の歴史も始まりました。甲斐の武田信玄は鹿革の丈夫さを重宝がり、甲冑がすっぽり入る「信玄袋」と呼ばれる革製の袋物を陣中で愛用したといわれます。
江戸時代、印伝は粋でいなせな小物として、庶民の間に広がりました。

印伝という呼び名は、寛永6年(1629年)に来航した外国人が幕府に献上したみやげ物の華麗な彩色に刺激され、これを擬して造ったものを「いんであ革」と呼ぶようになったことが由来のようです。印度伝来という意味で「印伝」の語源となったとされています。
その後、甲州の革工が革に漆付けを行い、甲州のみやげ物として発展していきます。四方を山に囲まれ、水源や森林資源の豊かな甲州の地は、このようなものづくりには、適した土地だったのでしょう。
享和2年(1802年)から文化11年(1814年)にかけて初刷りされた、十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」の中にも、印伝の巾着を腰に下げた旅人の様子が描かれています。印伝の巾着や銭入れは、当時の庶民の間にも広く浸透していったのです。
時代は下り、昭和50年(1975年)には、甲府印傳商工業協同組合が設立され、後に日本の伝統的工芸品として認定されました。
平成8年(1996年)には、<印伝の山本>の山本誠さんが甲州印伝伝統工芸士(総合部門)の資格を取得。それから22年もの長い間、新たな資格取得者はいませんでしたが、平成30年(2018年)に現社長の山本裕輔さんが同資格を取得。<印伝の山本>は、先人の仕事に敬意を払いながら、印伝の新しい進化を模索しています。
艶っぽく盛り上がった漆の手触りを生み出す、
<印伝の山本>の漆付け技法。

漆付け技法の工程
皮そのものの素材感に溢れた印伝

このような「漆付け技法」によって作り出される<印伝の山本>の印伝は、皮そのものの素材感に溢れ、通常の印伝よりも柔らかく仕上がるところに特徴があります。
さらに、カラフルな色味や、今までにない新しい感覚を持つ型紙にも積極的に挑戦。まさに「Neo INDEN」という言葉がふさわしい、新しい印伝への冒険心と探究心に満ちています。
切磋琢磨しながら印伝作りに打ち込む、山本裕輔さんと法行さんのご兄弟。


お二人にお尋ねします。<印伝の山本>の印伝は、柔らかな皮の素材感があることで知られています。同時に、カラフルな色使いにも定評があります。どうしてこのような多彩な色を使うようになったのですか。
山本裕輔さん(以下/裕輔):
<印伝の山本>を創業した祖父(山本金之助)が、華やかな色が好きな職人だったようです。色にはたいへんなこだわりを持っていて、鹿革を自分の好きな色に染めていました。20種類以上ある、<印伝の山本>の多彩な鹿革の色は、祖父から始まったものです。
今年2月に他界された伝統工芸士であったお父さま(山本誠さん)は、どのような方でいらっしゃったのでしょうか。
いわゆる職人気質の人間でした。父親としてはあまり遊んでもらった記憶はありません。私は子供の頃からずっと、父の隣りで「鞣して染色した鹿革に伊勢型紙を置いて漆を刷り込み、型紙から剥がして室で漆を硬化させて仕上げる……」という印伝の工程を見ていました。大学を卒業した22歳の時から5年間は、父のもとでみっちり修業をしました。父からは本当に多くのことを教わりました。
山本法行さん(以下/法行):
真面目で気難しい人でした。仕事道具を大事にする人で、メンテナンスで一日終わる日もありましたね。ヘラの角度、漆の量、力の加減など、父にはたくさんの技術を教わりましたが、技術以上の言葉にならない多くのことを伝えてくれたと感謝しています。

お二人がこの仕事に就くようになったきっかけを教えてください。
私は子供の頃、竜騎士や武士など「士」のつく特別な仕事につきたいと思っていました。そのタイミングで父が伝統工芸「士」の資格を取り、自分もその仕事に就きたい!と素直に感じたのがきっかけです。
私は何がきっかけかわからないくらい、いつの間にかその気になっていました。高校を卒業すると同時に家業に就きたいといったのですが、父から高卒では雇わないといわれてしまい、大学に進学。その間に、独学で印伝に関連しそうなことを勉強しました。
裕輔さんは、登山が趣味だそうですが、甲州で印伝を作る職人にとって、やはり富士山は特別な存在なのでしょうか。
先祖代々山梨に住んでいて、祖父の代から「甲州印伝」の仕事に携わっているわけですから、富士山への想い入れは強いです。富士山のことは、ずっと頭の片隅にあったのですが、富士山が世界遺産に登録された平成25年(2013年)に、とうとう富士山柄の印伝を発表することができました。今では<印伝の山本>を代表する柄の一つとして知っていただくようになりました。
今後、お二人が守り育てていきたい印伝の伝統とはどのようなことでしょうか。
日本を代表する革工芸としての存在を守っていきたいです。意識して新しい風を吹かせたいと思っているわけではないですが、結果として時代に必要とされる製品を作っていけたらと思っています。
印伝における伝統とは、素材と技術の総体なのではないでしょうか。時代は変わっても、過去のものを作る技術力を備えていることが大事だと考えています。現在の印伝は実用的な価値を高めていったものがほとんどですが、もっと美術的な価値を高めていったものもあっていいのでは?と思っているところです。
<印伝の山本>では、この度新しく<URUSHINASHIKA>というブランドを始められましたね。ご紹介をお願いいたします。

しなやかさと美しさ、そして社会性のある印伝が、「甲州印伝」の新しいスタンダードになるように、これからも自らの技を磨きながら一生懸命育てていきたいと思っています。「越後屋オンライン」をご覧の皆さまに、興味を持っていただけましたら幸いです。
伝統を守りながらも、新しい感覚を持つ<印伝の山本>の山本裕輔さん、法行さんご兄弟のものづくり。これからも、印伝の美しい進化に注目したいと思います。
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